2009年11月20日金曜日

EU大統領にベルギーの首相ファン・ロンパウ氏が決まる

 11月19日晩、議長当番国スウェーデンの首相を議長として、ブリュッセルで開かれていたヨーロッパ連合(EU)の臨時首脳会議において、EU最初の大統領職にベルギーの現首相で、ヘルマン・ファンロンパウ氏が就任することに決まった。また、EUの外交・安全保障政策を対外的に代表する外装職には、イギリスのキャサリン・アシュトン氏が就任することになった。
 ファンロンパウ氏は、ベルギー内のフラマン(オランダ語)系で、中道右派のキリスト教民主党の政治家。哲学と経済学を学び、政治家ファミリーの出身でもある。これに対して、キャサリン・アシュトン氏は、中道左派の労働党出身。いずれも、対外的には必ずしもよく知られた政治家ではない。特に、アシュトン氏は、外交経験もなく、ヨーロッパ委員(通商担当)経験がわずか13カ月という新顔で、EUの顔となる二つの重職の最初の就任者が、いずれも、カリスマ性の未知な地味な政治家であったことに対しては、賛否両論が交わされている。

中道右派勢力に阻止されたブレア候補

 今回の初めてのEU大統領とEU外相選出については、事前に様々な予測が飛び交うこととなった。
 元より、27カ国もの加盟国を持つEUは、すでに、アメリカ合衆国やロシア、中国などの大国に対して、世界の一大勢力をなすものとして、対外的な統一性の必要が求められていた。ヨーロッパ憲法の設置は、今回の『大統領』『外相』選出と同様に、そのような文脈の中から生まれてきたものだ。
 しかしながら、「多様の中の統一」を目指す、民主的なEUの在り方は、各国の意向を無理なく生かす形の「統一」をどう生み出し維持していくか、という点で、常に緊張をはらんでいる。
 今回のEU大統領についても、EU内で、人口規模が大きく最も勢力が強いとみられるフランスやドイツからの選出は、ほとんど予測されないものだった。

 そんな中で早くから有力候補と見られていたのは、イギリスのブラウン首相が推薦する、元首相トニー・ブレア氏だった。しかし、今年6月のEU議会選挙の結果でも明らかなように、現在のEU議会の主要勢力は、中道右派に移っている。労働党の党首だったブレア氏の候補対しては、フランス、ドイツをはじめ、支持がほとんど得られなかった。その間、ずっと候補者として名前が挙がっていたのが、ベルギーのファンロンパウ首相だった。彼もまた、キリスト教民主党という、中道右派の政治家であるからだ。
 木曜日の朝までは、選出は深夜にまでもつれ込み、翌朝までかかることだろう、との消息筋の見方を覆して、意外なまでに早くあっさりと決まったのは、ブラウン首相の、ブレア推薦撤回であったといわれる。ブラウン首相は、中道右派勢力が圧倒するEUの首脳会議を前に、ブレア就任の可能性がないことを読み取り、撤回に踏み切ったといわれる。さらに、EU内で同じく大きな勢力を持つ社会主義派が、この時点で、外層候補にイギリスからの社会主義派の候補者を支持することで一致団結したと伝えられる。

EU重職への女性進出を求める声

 それが、意外にも、ほとんど知名度のないキャサリン・アシュトン氏の外相就任に結果した。EUの重職についている女性が少ないことに対する指摘、女性の住職就任を求める声が大きかったことが、アシュトン氏の就任を後押しした。もっとも、政治家としては、あまり経験が豊富でなく、ましてや、外交経験のほとんどないアシュトン氏の外交能力については全く未知で、批判や不安の声も皆無ではない。

 アメリカ合衆国では、オバマ政権下で、ヒラリー・クリントンが外相を務める。アシュトン氏は、対米的には、クリントン外相のパートナーになる。また、米国の外交・安全保障政策に対して、アシュトン氏は、中近東やアフガニスタン、また、中国をはじめとするアジア諸国に対しても、ヨーロッパを代表する外交任務を果たしていくことになる。果たして、クリントンの米国外交政策に対して、どのようなEU外交を展開することになるか、非常に興味深い。


多様性の統一を示す顔

 フラマン(オランダ語系)出身のベルギー人、ファンロンパウ氏は、EU大統領の就任が決まった直後のスピーチを、英語・フランス語・オランダ語の3カ国語で行った。その中で、「統一が私たちの力であるとともに、多様性は私たちの豊かさであり続ける」と述べた。
 実に、ヨーロッパの豊かさは多様性にある。そのことは、EU発端となった「ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体」の時代から、ずっと維持されてきた考え方だ。そして、それは、単刀直入に言えば、マイノリティ(少数者)を無視しない、お互いが、マイノリティ同士でありながら、それを互いに尊重していくことによって作り上げる共同体である、ということだ。

 その意味で、言語圏対立を続けながらも、EUのベースブリュッセルを保ち続けている小国ベルギーから、最初の大統領が選出されたことは、最も妥当な結果であったといえよう。

 オバマ大統領からは、さっそく、ヨーロッパは米国にとって「ますます強いパートナーになる」という歓迎のメッセージが伝えられたという。
 ヨーロッパが、対米対立的な政策をとるのではなく、米国がこれまで維持してきた世界覇権に対して、建設的な批判的立場を提示し、世界のマイノリティを尊重した、世界規模での平和に貢献するためのモデル策を提示していく限り、ヨーロッパが持つ世界における指導的位置は、健全であり続けると思う。