2010年5月12日水曜日

戦後初の連立政権―――イギリス:自由民主(リブ・デム)党の進出

 「なるほど、大陸側とは事情が違うな」とつくづく思わされたのが5月7日のイギリスの下院選挙。
 日本の選挙制度を考える上でも、実に興味深い結果だった。

 12日、選挙から5日かかって、漸く、保守党と新進自由民主党(英国では、リブ・デムと呼ばれる)の連立政権の樹立が決まったイギリス。新聞紙上では、「何と5日もかかって政権ができた」というような表現が目立つ。総選挙から100日かかることもまれではないオランダやベルギーの事情を知っている筆者にとっては、わずか5日で樹立されたじゃないの、と聞き返したくなる表現だ。しかし、イギリスでは、戦後ずっと二大政党が交代で政権をとってきており、今回初めて、この二大政党保守党と労働党が、一党支配ではどうにもならない、という憂き目をみることになった。

 こういう事態を生んだのは、43歳のニック・クレッグという政治家が率いたリブ・デム党の大躍進にある。
 大躍進とはいうものの、意外だったのは、世論調査による最終投票予測での支持率の分配具合と、選挙での議席各党数の分配具合があまりにも違っていたことだ。

 選挙の直前の世論調査での支持率の分配は、保守党36% 労働党 28% 自由民主(リブデム)党 29%と、なんとリブ・デム党が労働党の支持率を越えて保守党に迫る勢いだった。この支持率が発表されてからというもの、マスメディア上で、次期政権をめぐる議論が沸騰してきているようにも見えた。
 だが、選挙の結果では、自由民主(リブデム)党は、意外にも少数の議席しか獲得できなかった。(保守党:305議席、労働党:258議席 自由民主(リブデム)党57議席)

 世論調査の支持率と選挙結果とにいったいどうしてこんなにも大きな格差が生まれたのか、その理由は、選挙制度にある。イギリスの選挙制度は、小選挙区制で、小政党や新進の政党が票を取りにくい制度になっている。これまで、ずっと2大政党が続いてきたのも、この選挙区制の選挙制度のためだ。

 しかしながら、にもかかわらず、自由民主(リブデム)党は、57議席という、少数派政党としてはかなりまとまった議席を獲得することで、保守等とも労働党とも連立の可能性を持ち、結局、次期政権の成立の行方に鍵を握ることとなった。

 早い話が、今回のイギリスの選挙は、選挙区制制度の持つ短所を見な表してしまったようなものだった、ということだ。

 「5日も」かかった連立交渉中、自由民主党の党首ニック・クレッグは、党員や党の支持者から、選挙制度改革を条件として連立に同意するように、との強い条件をつけられたという。各得票数と、獲得議席数の分配が、非常に違うわけだから、選挙制度そのものが民主的でない、ということは明らかだ。

 連立の樹立によって、副首相の地位に就任したクレッグが、次期政権中に、選挙制度改革にどこまで成功するか、注目される。

 イギリスもまた、とうとう、ヨーロッパ大陸型の、多党連立政治の時代に入ったようだ。

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 ところで、自由民主(リブデム)党の党首ニック・クレッグは、イートン出身の典型的なイギリス人エリートであるかにみえるが、実を言うと母親がオランダ人で、父方もロシア人の流れを持ち、妻はスペイン人と、生粋のイギリス人とは程遠い存在。多元主義的な多党政治を民主的と考える、その背景には、自身の出自の国際性も反映していることと思われる。

 アメリカ合衆国の大統領、オバマもそうだが、最近は、生粋の本国人よりも、多文化・多国籍の背景を持つ政治家が進出してきている。いいことだと思う。同時に、世界は、国境を越えて、地球市民が政治を担う時代になってきているのかもしれない。

 日本の選挙制度もそろそろ変わっていい。それに、日本にも、多国籍の政治家などが出てくれば、世界水準に近づきそうな気もする。