そんな中で、昨日のニュースによると、イギリスの保守派当選議員のイニシアチブで、ヨーロッパ議会の中に、中道右派の政党(European Conservatives and Reformists group)を作るという動きが活発化してきている。すでに、他国の当選議員たちとの交渉も始まっており、それによると、イギリスの保守派議員26人に加え、ポーランドの15人、チェコ共和国の9人のほか、ラトヴィア、フィンランド、ハンガリー、ベルギー、オランダの議員参加の可能性もあり、8カ国の議員らを集め第4位の政党になる可能性が出てきている。ヨーロッパ議会の規則では、最低7カ国からなる25人の議員が必要とのことなので、新政党結成の公算は非常に大きい。
さて、新政党の立場はどこか、というと、すでに、10原則の政党綱領をあげているが、一言でいえば、ユーロ・リアリズム、欧州連合の参加国の個々の統合的な自治を尊重し、欧州連邦主義に反対するというものだ。わかりやすく言えば、欧州連合を各国の動きに優先するのでなく、各国の自治体制をより優先的に、ということらしい。
挙げられている10カ条の原則には、欧州規則の削減、減税、個人の自由の重視、社会の基礎としての家族の尊重、持続可能なクリーンエネルギー推進、などの典型的な自由主義派の政策に加え、効果的な外国人の入国管理といった、対移民政策が見えるあたりにやや強い保守傾向がみられる。
欧州の官僚主義を嫌い欧州基金の透明性を求めるといったあたりは、新自由主義的な「小さい政府」を思わせる。いずれにしても、欧州レベルでの管理を嫌って、各国の自治を求めている点が、最も売りではないかと思う。
かつて、欧州憲法に対するレファレンダムが行われたときに、フランスやオランダなど、欧州連合に設立当初からかかわってきた国で、反対票が多かったことが話題となった。
欧州連合が拡大を続ける中で、政治の行方が自分たちの手の届かないところで決まっていくという民衆の感情はどの国にも強まってきている。
高齢化社会と移民の流入によって将来への社会不安が高まる中、トルコ加入問題も常に議論の的になっている。イスラム教徒住民が多いトルコが加入すれば、キリスト教の伝統を持つ欧州各国のアイデンティティはどうなるのか、という感情論もしばしば耳にする。
そんな中で、今回の選挙で増えていた、無所属や少数政党を代表する「その他」のカテゴリー議員たちは、どちらかというとヨーロッパ連合の拡大と集権化に懐疑的な議員たちだった。
それが、今回政党結成によってまとまっていくという。非常に興味ある動きだ。
もしかすると、既存のヨーロッパ政党の中から分離して、新政党に参加するという政党が出てくる可能性もなくはない。
オランダに関して言えば、「極右」にも近いウィルダーズ率いるPVVが多数得票して欧州議会に5議席を送ることが注目された。ヨーロッパ懐疑派の中でも最も右寄りであるはずだ。
今回の新政党の動きには、PVVの参加の見通しはないようだ。PVVと同様に、移民対策には注意深い政党となりそうだが、PVVが繰り返す差別的なイスラム教批判はしていない。
新政党の結成は、PVVにとっても、勢力の低下のきっかけになるかもしれない。現在の(オランダの)移民対策に不満だった人々の票が集まっていた可能性があるからだ。
地方分権的な、参加国のアイデンティティ保存の上にたつヨーロッパ連合のあり方について、細かい点での違いを代表する政党が生まれる可能性が出てきたのは、今後のヨーロッパ連合の議論をよりダイナミックにするもので、それだけでも非常に興味深い。